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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2203号 判決 1965年2月25日

主文

1、第二二一九号事件につき、控訴人斉藤正及び同斉藤直の控訴を棄却する。

2、第二二〇三号事件につき、原判決中控訴人東京小型自動車部品株式会社に関する部分を取消す。

3、第二二〇三号事件につき控訴人東京小型自動車部品株式会社が東京都千代田区神田東紺屋町四番地宅地一〇六坪五合一勺のうち南側五八坪七合六勺(原判決添付図面中実線で囲まれたAの部分)について賃料一ケ月金八八一四円、賃貸借期間昭和三四年一月一日より昭和六三年一二月末日まで、非堅固建物所有のための賃借権を有することを確認する。

4、第二二一九号事件控訴人斉藤正及び同斉藤直の控訴費用は右両名の負担とし、第二二〇三号事件控訴人東京小型自動車部品株式会社と同事件被控訴人斉藤正及び同斉藤直間の訴訟費用は第一、二審を通じ、右被控訴人両名の負担とする。

事実

第二二一九号事件控訴人斉藤正及び同斉藤直は『原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人岡田輝彦の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人岡田輝彦の負担とする。』との判決を求め、同事件被控訴人岡田輝彦は控訴棄却の判決を求め、第二二〇三号事件控訴人東京小型自動車部品株式会社は主文第二、第三項及び第四項後段と同旨の判決を求め、同事件被控訴人斉藤正及び同斉藤直は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。

なお以下第二二〇三号事件控訴人東京小型自動車部品株式会社を第一審原告東京小型自動車と、同事件被控訴人第二二一九号事件控訴人斉藤正及び同斉藤直を第一審被告斉藤両名と、第二二一九号事件被控訴人岡田輝彦を第一審原告岡田輝彦と言う。

第一審原告東京小型自動車は、

第一審被告斉藤両名は昭和三四年一月以降昭和三五年三月まで第一審原告岡田輝彦より再三本件賃借権譲渡につき承諾を求められたのに対し何ら拒否しなかつたから、暗黙の承諾をしたものと解すべきである。

仮に第一審被告斉藤両名が本件賃借権譲渡を承諾しなかつたとしても、第一審原告東京小型自動車は調停条項に除外事由として挙げられている『社会的若しくは信用上賃借人として不適格者』でなく、もとより第三国人でもないから、第一審被告斉藤両名は第一審原告岡田輝彦より事前に本件賃借権譲渡についての承諾を求められたとき、これを承諾すべき義務があつたから、その後賃借権を譲受けた第一審原告東京小型自動車はその賃借権を第一審被告斉藤両名に対抗しうるものである。

と主張し、第一審被告斉藤両名は右の主張を争つた。

なお原判決四枚目表三行目賃借権の次に、但し賃料一ケ月金八八一四円と加入する。

立証(省略)

理由

第一審原告岡田輝彦が昭和二二年五月一日第一審被告斉藤両名からその所有にかかる主文第三項掲記の宅地一〇六坪五合一勺を賃借していたところ、昭和三三年一二月一六日右当事者間の東京高等裁判所昭和三三年(ユ)第三九号建物収去土地明渡調停事件において次のような調停が成立したこと、即ち、

(1)、 第一審原告岡田輝彦と第一審被告斉藤両名との右土地賃貸借契約を同日合意解除し、右土地のうち北側四七坪七合五勺を昭和三四年八月末日限り第一審原告岡田輝彦から第一審被告斉藤両名に返地すること、

(2)、 第一審被告斉藤両名は前記土地のうち南側五八坪七合六勺(原判決添付別紙図面中実線で囲まれたAの部分)を昭和三四年一月一日以降昭和六三年一二月末日まで賃料一ケ月金八八一四円(但し第一審原告岡田は賃料一ケ月金八八一〇円と主張し、第一審被告斉藤両名はこれを認めている)毎月末日払、非堅固建物所有のため第一審原告岡田に賃貸すること、

(3)、 第一審原告岡田輝彦が右賃借権を第三者に譲渡する場合は予め第一審被告斉藤両名の承諾を求めることとし、第一審被告斉藤両名は賃借権譲受人が第三国人又は社会的若しくは信用上賃借人として不適格者に非ざる限り無償にて右譲渡を認むべきこと、

(4)、 その他の条項は省略

そして第一審原告岡田輝彦が昭和三五年四月二三日右借地上の所有建物と右賃借権とを第一審原告東京小型自動車に譲渡したことは、いずれも当事者間に争がない。

次にいずれも成立に争のない甲第二号証の一乃至三及び原審における第一審原告岡田輝彦本人尋問の結果とによれば、第一審原告岡田輝彦は昭和三五年一、二月頃第一審被告斉藤両名の自宅を訪問して、第一審被告斉藤両名の実父で同人らと同居しており、且賃借権譲渡の諾否の権限をもつていた斉藤芳之助に対し、第一審被告斉藤直の同席しているところで、前記調停に基くA地の賃借権を第一審原告東京小型自動車に譲渡したい旨を申出で、その承諾を求め、ついで同年三月三〇日頃第一審原告東京小型自動車の代表取締役前川恒吉を同道して第一審被告斉藤両名宅を訪ね、前記斉藤芳之助や第一審被告斉藤直に前川恒吉を紹介した事実が認められ、右認定に反する乙第二号証の一、乙第三号証の一、乙第五号証の一、原審及び当審証人斉藤芳之助の証言、原審における第一審被告斉藤直本人尋問の結果は前記証拠に照らし措信できず、他に前認定を覆えすに足りる証拠はない。而して成立に争のない甲第四号証、原審における証人西沢清十郎の証言及び第一審原告東京小型自動車代表者尋問の結果によれば、第一審原告東京小型自動車は自動車の部分品、附属品等の販売を業とする会社で、海外とも取引があり、その販売高は年間金五億円に及び、都内における業界有数の会社であることが認められるが、第三国人の資本によつて経営されているような事実は全く認められない。従つて第一審原告東京小型自動車は前記調停条項に謂う『社会的若くは信用上賃借人として不適格者』とは考えられないし、もとより第三国人でもないから、第一審被告斉藤両名は前記調停条項に基き第一審原告岡田輝彦に対し賃借権譲渡を承諾しなければならない。そして右の通り第一審被告斉藤両名が賃借権譲渡を承諾すべき義務のある以上、現実にこれを承諾しなくとも、譲受人たる第一審原告東京小型自動車はその賃借権の譲受を第一審被告斉藤両名に対抗しうるものと解すべきであり、また、賃貸人たる第一審被告斉藤両名は賃借権譲渡に承諾のなかつたことを理由として賃貸借契約を解除できないものと謂うべきである。従つて第一審被告斉藤両名が昭和三五年九月一〇日第一審原告岡田輝彦に対しなした賃貸借契約解除の意思表示はその効力を生じない。

以上の次第であるから、原判決中、賃借権譲渡についての承諾を求める第一審原告岡田輝彦の請求を認容した部分は相当であるが、譲受けた賃借権の確認を求める第一審原告東京小型自動車の請求を排斥した部分は失当であるから、これを取消し、その請求を認容すべきである。

よつて民事訴訟法第三八四条第三八六条第九五条第九六条第八九条第九三条の各規定に則り主文の通り判決した。

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